一回の透析で約120Lもの量が使用される透析液。この透析液の「清浄性」が安全で快適な透析を行うための要(かなめ)となります。
透析の後に、どうも体調がよくないと感じることはありませんか?もっと「きれいな透析液」にこだわると、透析後の体調が良くなる可能性があります。さらに長期の透析に伴う合併症を予防または軽減することも期待できます。
私たちは、当院で透析をお受けになる患者様が安全で快適な透析生活をお送りいただけるよう、独自の考えと強いこだわりをもって透析液の清浄化に取り組んでいます。
一回の透析で約120Lもの量が使用される透析液。この透析液の「清浄性」が安全で快適な透析を行うための要(かなめ)となります。
透析の後に、どうも体調がよくないと感じることはありませんか?もっと「きれいな透析液」にこだわると、透析後の体調が良くなる可能性があります。さらに長期の透析に伴う合併症を予防または軽減することも期待できます。
私たちは、当院で透析をお受けになる患者様が安全で快適な透析生活をお送りいただけるよう、独自の考えと強いこだわりをもって透析液の清浄化に取り組んでいます。
透析液は水道水を純水化してから薬剤と混ぜたものです。また透析液はダイアライザーという機器のなかで透析膜を介して血液と接します。透析液に低分子の不純物が含まれていると直接血液に入ってしまうため有害です。特にエンドトキシンと呼ばれる毒素が血液に大量に侵入すると、透析中に血圧が降下したり、発熱や悪寒がしたり、ショックを引き起こしたりします。
エンドトキシンは細菌の死骸から出てくる毒素です。私たちが口にする水道水の中にも存在します。水道水の元となる河川の水や地下水には生きた細菌が含まれているため、浄水場において塩素消毒が行われます。塩素によって細菌は死滅しますが、その後も死骸が水中に残り、死骸の表層が壊れるときエンドトキシンを放出します。それでも(限度はありますが)飲用に適さないわけではありません。腸管で無害化されるので安全です。
しかし、極微量でもエンドトキシンが血液循環に入ると体内で様々な反応(炎症)を引き起こす要因になります。血液を体外に引き出して大量の水(透析液)と接触させることになる透析においては、エンドトキシンが血液に侵入する可能性があり、その危険性は決して無視できないものです。
水道水に含まれていたエンドトキシンは、水処理(透析用水を作る)過程で除去されます。ただし、しっかりと除去できない場合もありますし、再汚染される場合もあります。原因は、元もとのエンドトキシンの量が多かったり、水処理装置や配管内で細菌が繁殖してしまうためです。
活性炭フィルターで水道水から残留塩素が除かれた途端に細菌への抑制力がなくなるため、それ以降の経路で細菌が繁殖可能になってしまいます。細菌がいればエンドトキシンも生じてしまいます。本来ならエンドトキシンを除去することができるRO膜ですが、エンドトキシンが高濃度になると100%は除去されず、汚染が残ることになります。
また、水処理装置を通過した後も配管等に細菌が棲みついていれば再汚染されてしまいます。このようなことを防ぐには細菌の感染経路を断ち、繁殖がないかを注意深く監視していく必要があります。単に清浄化したというだけでなく、その清浄性を保つことが重要なのです。
つまるところはダイアライザーのなかでエンドトキシンが透析膜の穴を通り抜けてしまうことが問題ですが、そうかと言ってエンドトキシンを通さないほど小さな穴の透析膜を使えば、透析アミロイドーシスの原因となるβ2-ミクログロブリンを血中から除去できなくなります。β2-ミクログロブリンを除去しつつ、エンドトキシンが血液に入るのを防ぐには、必ず透析液がダイアライザーに入る前にエンドトキシンを取り除いておかなければなりません。
このため多くの透析施設でベッドサイド毎にエンドトキシンカットフィルターが取り付けられています。ダイアライザーの手前まで流れて来てしまったエンドトキシンを遮る最終的な防壁とするためです。もちろん当院もそのようにしています。しかし、これだけで安全とは言い切れません。
β2-ミクログロブリンと透析アミロイドーシス
β2-ミクログロブリン(β2-MG)という物質は全身の細胞から産生されるタンパク質です。通常は腎臓の糸球体で濾過され、尿細管で再吸収されるときに分解されます。
腎機能が低下すると処理できないβ2-MGが体に溜まり、これを元にしてアミロイド繊維(異常タンパク質)が形成され、骨や関節、腱、臓器などの組織に沈着していきます。沈着が続いた部位にはやがて障害が起こり、痛みを生じたり動きが制限されるといった症状が出てきます。透析を長期に受けている患者様がこのような障害を合併することを透析アミロイドーシスといいます。
エンドトキシンカットフィルターを通過した直後の透析液を採取してエンドトキシン活性測定を行ってみると検出感度以下、つまり菌が検出されなかったという結果になることが多いです。この結果を透析液の水質基準に照らせば問題ないことが分かります。ですが、厳しい見方をするなら、検出感度以下はゼロではなく、検査ではかれない量だったということです。その量にも多い少ないの違いがあります。
例えば、ある結果では検出されないギリギリの量で、ある結果では極めてゼロに近い量であったとします。このような違いがあるとしたら何が原因と考えられるでしょうか?エンドトキシンカットフィルターは完全にエンドトキシンを遮れるものではありません。極めて微量ですが漏らしてしまいます。漏れる割合は同じなので、フィルターを通ろうとするエンドトキシンが多ければ漏れる量が増え、少なければ漏れが減ります。
つまり、エンドトキシンカットフィルターを通る前での清浄性によって、フィルター通過後のエンドトキシン量に、検査ではかれない違いを生むことが想像できます。汚染があればそれなりに漏れる量を増やしてしまいますが、既にキレイな状態であればフィルターの性能をより発揮できると考えられます。
極わずかな差と思われるかもしれませんが、積み重ねれば次第に大きな差になります。実際の透析時に使われる透析液の量は、検査用に採取する量(0.01ml)とは比較にならないほど大量です。しかも透析は何度も行われます。
微量のエンドトキシンでも、長期にわたって繰り返し血液に入り続けることを考えれば甘く見ることはできません。発熱や血圧降下といった急性反応が出なくとも、体内では異物の侵入を引き金にした反応が着々と起こり炎症を強めていきます。これが続く慢性炎症状態に陥ることで動脈硬化や栄養障害など数々の合併症を発症します。
やはり必要なのは不純物のない 「とてもきれいな透析液」 です。
ダイアライザーの中にある透析膜はストローのようなかたちに成形されているため、『中空糸膜』とも呼ばれます。中空糸膜はとても細い繊維状のものです。一つのダイアライザーのなかに数千から数万本ほど入っています。患者様の血液は中空糸膜の内側を流れ、透析液は中空糸膜の外側を血液と反対向きに流れます。
透析液は、各医療機関の透析施設において作られます。まず水道水から不純物や塩素などを取り除いて「透析用水」にしてから、透析液の原剤(電解質等)と混ぜて濃度を調整して透析液が作られます。
おおまかな手順はどこの透析施設も大差ないはずですが、違いがあるのは細菌対策です。透析液を作る環境と作業方法によって菌の汚染機会が変わってきます。また、せっかくきれいな透析液を作っても、患者様のお体に届くまでの配管で菌に汚染されることもあります。
細菌は生きたままの大きさなら透析膜の穴を通過しませんが、死滅して壊れるとエンドトキシンを放出してしまいます。透析液を扱う場所や機器・器具に細菌を繁殖させないようにしなければ清浄性の高い透析液は作れないのです。
しかし、人間が暮らす場では細菌がウヨウヨいて当たり前。無菌状態を保つのは特殊なことで、開放的な空間でならほぼ不可能です。水道水の塩素は細菌の繁殖を抑えますが、透析液に塩素を入れたままにはできません。そのうえ、細菌の栄養となるブドウ糖が加えられます。
そう考えると、細菌汚染のリスクを完全に失くすことは困難といえます。リスクがありながら高い清浄性を保つには、透析液はもとより、それが接するあらゆるものをとにかく”汚さない”管理を持続的・徹底的にするより他ないのです。
そのためには、設備や操作方法と同等もしくはそれ以上に透析スタッフの意識が重要になります。これこそ”透析液の清浄性は施設による”といった所以です。透析液の水質に関して基準はありますが、それ以上にこだわるか否かは各施設の考え方次第。当クリニックでは基準以上のさらに上の『ウルトラピュアな透析液』を目指しています。
『ハイパフォーマンス』と言われるように透析器の性能が向上し、からだの中で出来た老廃物のうちβミクログロブリンで代表されるような比較的大きな分子のものも除去されるようになりました。
そのかわり透析液の清浄性が保たれていないと透析液中の有害物質が体内に流入してしまいます。
「RO装置で純粋化しているから」
「消毒をしているから」
「エンドトキシンカットフィルターがあるから」
それでOK、というやり方ではなく、
透析液を作成する段階から清潔操作で清浄度を保ち、事後消毒を行い、最後の安全弁としてベッドサイド毎にエンドトキシンカットフィルターを装着しています。